ヨーロッパ腐蛆病(EFB=European Foul Brood )

 アメリカ腐蛆病(AFB)のように蜂場全体が壊滅するような被害をもたらすことは稀である。環境悪化に伴い発生し、原因菌に感染しているだけでは発病しない「ストレス病」と呼ばれている。
 事実、流蜜が始まるか、女王蜂の更新などの環境改善で自然治癒することが多い。AFB 菌と異なり、EFB原因菌は球菌に分類されている。(Mellisococcus plutonius)働き蜂が与える餌によって孵化後2日以内の幼虫が感染し、3~4日令には死んでしまうような速い経過をたどるので、AFB との判別はまず死亡日令を確認しなければならない。
最初,幼虫は本来の真珠色の光沢と透明感を失い、まもなく黄色味を帯びてくるが、最後には黄褐色に変わり、脈管部分だけが白いすじとなって網状に光って見えるようになる。しかし、実際にはいつもこのような典型的な病変が現れるわけではない。EFB 菌の感染には、しばしば単独では病原性を発揮できないような雑菌が介在するため、症状は
複雑化することが多く、それ故、ヨーロッパ腐蛆病に関しては、恐ろしいアメリカ腐蛆病との「類症鑑別」がもっとも大切なポイントになる。この病気そのものを極度に恐れる必要はないが、不顕性なAFB と混同することが危険で、注意しなければならない。)ともかく幼虫がごく若い日令で死ぬために、その死骸は「C」の字形で小さく巣房の底に収まっていて、AFB のように巣房の側面壁まで達することはない点にひとつの特徴がある。
 死亡幼虫はやがて腐って形がくずれるが、ロピネステストによって、その違いが区別できる。
 AFB 同様、抗体検査用キット(Vita eurpope 社 UK)があり、簡単に正確な診断ができる。病原菌にはAFB菌と同様、テトラサイクリンなどの抗生物質が効力を持つが、採蜜シーズン前やその最中に,治療目的で使用すべきではない。
注意を要するのは、AFB と EFB は家畜伝染病予防法では何故か区別がなく、ひとまとめの「腐蛆病」として法定伝染病とされている点である。法的には蜂群の焼却の対象となる。ちなみに法定伝染病に指定されているのは我が国だけである。病気の発生している巣脾は焼却し、巣箱も消毒するか別のものに取り替えたほうが良い。
 できれば発生群の女王蜂はとり換えてしまいたい。他の健康群の完成女王(既交尾王)か王台、それが無ければやはり健康群からの産卵巣脾を使って王台を作らせる。 耐病性品種を導入することはさらに望ましい。
 法的な問題点を無視してもし治療を試みるならば、獣医師の指導のもと抗生物質を花粉か人工飼料のパテ(だんご)にして投与した後、この群は養成群としてその年の採蜜は控えることとする。

ノゼマ病(従来型)Nosema Disease

※(従来型の Nosema Apisni についてのみ、新型 Nosema ceranae に関してはトピックスに記述

病原体
 成蜂が罹る原虫 Nosema apis の感染による病気。(原始的な単細胞生物で、より高等な生物の細胞に侵入し、胞子を作り増殖する過程で組織細胞を破壊する種類がある。)
 このグループの微生物は、より進化した他の生物、特に昆虫類の消化管内に常在的に寄生するものが多い。単細胞で肉眼では見ることができない。
 分類学的にも定義の難しいものとされていて、近年は Spore=胞子を形成する微生物と意味から microsporidia と分類されている。意外にもある種の「カビ」であるらしい。
 西洋ミツバチの消化管内には、常在的なありふれた菌であって、ミツバチに病気を起こさせることは稀で、罹っても環境が良くなれば自然治癒するものと考えられてきた。しかし,寒冷地で長期間の越冬後、気候不順な早春には相当な規模で発生することがある。それと知らずに悩まされている北国・雪国の定飼家がいる可能性は少なくない。
 気象条件のほかには、寄生ダニの介在や花粉や貯蜜の不足もノゼマ病発症に関連する。
また近年、もとの宿主・東洋ミツバチから宿主を西洋種とする系統に進化したと言われる新型ノゼマ Nosema ceranae が世界中に広がっていることが判ってきたが、別項で述べることにして、ここでは従来型のノゼマ病についての記述にとどめる。

感染
ミツバチは通常、巣箱内での排泄はしないものである。しかし、気温や天候に恵まれず、外へ脱糞のために飛び出せない状態が長期間続いた時、また下痢症状におそわれた時などは、巣箱の底や壁を排泄物で汚すことがある。清掃ステージにある働き蜂はこれをきれいにしようとして口器を汚染し、病原体が介在する場合はかえって他の蜂を感染させる原因となる。
 冬の間中、一歩も外に出られないような雪国では、このように次第に感染蜂が増加してゆき、消化管の上皮細胞の中で増殖し、早春の頃には顕著な症状が現れるものと考えられる。重症群では巣門付近が多量の下痢便で汚染されるが、病蜂が外で脱糞するために飛び立とうとしてもその力がなく、その場で排泄してしまうためである。
この汚物には胞子(Spore)が大量に含まれていて、他の群を感染させる源となる。

症状
 個々の成蜂に外観上目立つような症状は現れなくとも、群としての変化が起きる。感染した成蜂の寿命は極度に縮まり、冬の終わり頃から、初春にかけて、群が衰退してくる。日令の若い蜂は、ノゼマの感染によってその行動パターンが変わると言われる。通常、働き蜂は羽化後 20 日ぐらいまでは、巣の内部での育児・清掃・造巣などの役割を担い、その後警戒蜂・外役蜂として外での活動に従事し始める。ところがノゼマに感染した若い蜂は早くから外に出るようになる。下痢による排泄の必要性に迫られた結果であるのか、蜂の体内になんらかの異常が起こるためなのかは明らかでない。女王蜂が感染すれば、産卵は著しく落ち込む。

診断
 重症の場合、体内の水分が増加していわゆる水ぶくれ状態になる。
腹部の膨脹、下痢、巣門からの這い出し、羽がきちんとたためていないなどの症状が出てくるが、いずれも農薬などの中毒症状や他の病気との共通点が多い。
腹部を膨らませた蜂を圧迫して中の腸管を搾り出してみると、健康体であれば通常黄褐色で、食べた花粉の種類が複数の場合は、摂取した順に色の違う縞模様が見えることがある。ところが、感染した蜂のそれは灰色または灰白色で模様も消えてしまっている。
 ノゼマ病にはしばしばある種のアメーバ( Malpighamoeba mellificae )の複合感染を伴う。 このアメーバはマルピギー管(昆虫類特有の器官で、消化管につながる盲状管。)を冒して症状をさらに複雑にする。
 一般に幼虫の病気を診断することは、基礎的な知識があればそれほど難しいことではない。
 一方、成蜂の病気になると、体表面が硬いキチン質の外皮で被われているために、内部の病変が形態や色調の変化として現れてこない。したがって成蜂が罹る病気の診断は、臨床的な検査だけでは難しいことが多く、顕微鏡下で病原微生物の特定を要することになる。


治療・予防
成蜂の病気であることに加え、わが国では、多くの専業家が蜂群を温暖な地方へ移動して越冬するために発生が尐ないと考えられている。海外では予防薬として、秋に糖液に混ぜて与えるフマギリン(Fumagillin )が使用されているが、スポアには効果がないほか、貯蜜に薬剤が残留する可能性も否定できない。(日本では販売されていない。)
 病気の予防にはまず越冬期間中のストレスをできるだけ除いてやることが大切。 巣箱は防寒のためにいわゆる冬囲いをする場合があるが、湿度が高くならないように地表よりできるだけ高くして、また結露による水滴を逃がすために巣門を尐し低くして設置する。越冬前には充分な貯蜜があること、ヘギイタダニが尐ないことを確認しておくことが大切。

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