ミツバチの授粉作戦のいろいろ
☆寒冷地・雪国のイチゴハウス
西洋ミツバチはふつう気温15℃以上で飛び始めますが、寒い地方では充分にハウス内温度が上昇しない日もあります。特に冬の日本海側は連日曇天が続くことが多く、授粉が上手く行かないこともあります。より注意深い蜂群の管理が必要です。できれば真冬のミツバチの購入は地元の養蜂業者は避けて、暖かい地方から産卵・育児が継続している群を調達する方がよいでしょう。
雪の中から掘り出された巣箱をハウスに導入すると、ミツバチは勢い良く飛び出しますが花には通いません。越冬モードの群の女王蜂は産卵していないので蜂児(幼虫)がいません。蜂児が無いので働き蜂は花粉を集めようとしないのです。女王蜂の卵巣機能が回復して産卵を再開すれば訪花が始まりますが、約1週間を要します。病害虫防除のために巣箱をハウス外へ出す場合は、極度の低温を避けて、10〜15℃程の温度が保たれる屋内暗所に保管してください。
☆マンゴの受粉戦略
マンゴはインドやインドシナ半島原産の熱帯性果樹で、現地では乾期に開花します。元来西洋ミツバチは棲息しない地域で、媒介昆虫は主に蠅と考えられています。実際マンゴの花は強い腐敗臭で、蠅を誘う戦略を採用しています。
マンゴは我が国では100%ハウス内で栽培されます。寒さから樹を守るだけではなく、降雨から花粉を守る意味もあります。
花粉媒介は以前は蠅に頼っていて、漁港から魚のはらわたなどを調達して蛆を発生させていました。樹枝を支える針金には、まるで電線に止まるスズメのように蠅が整列しているのを見たことがあります。最近は近隣からの苦情や見学者の不興を買うなどの点が考慮され、ミツバチへ切り替えが進んでいます。
しかし、マンゴなどの熱帯果樹の栽培適温は西洋ミツバチが飛びやすい適温18℃〜25℃を越えることが多く、蜂群は早く消耗します。そのため、巣箱をハウス外側に接して置き、ミツバチが野外にもハウスの中にも飛び出せるような工夫をして群勢を保つ方法が採用されています。
☆梨の花粉媒介チャレンジ
りんごを始め大半の果樹の授粉は、ほぼ100%ミツバチが担う一方、梨だけは一部の利用に留まり、多くは人手に頼っています。自ら採取するか輸入花粉を購入して授粉作業をしている農家が多く、大きな作業負担になっています。
梨の花は豊富な花粉を産生する一方で、その花蜜は量も少なく糖度も低いものです。(糖度=リンゴ40%以上、梅・桃25〜30%、梨10%程度)
不都合なことには、梨の花が咲く季節には、山野にもっと魅力的な花が豊富にあります。これがミツバチの利用が進まない原因となっています。
梨の花はふつう一斉に開花し、開花期間も1週間ほどしかないため、人手による一気の作業は高齢化の進んだ栽培農家の大きな負担となっています。
また、海外の梨の病気(火傷病)が原因で、花粉輸入が難しくなったこともあったそうで、ミツバチに任せることが望まれています。
しかし、梨の花粉交配に必要なミツバチの巣箱の数と群の内容は、周囲の環境に大きく左右されるので参考になるようなデータはありません。
おそらく他の果樹よりも多くの巣箱を導入すべきでしょう。また、蜂群を別の場所で待機させて、10%以上の開花を見た後に梨園に持ち込む方法が成果を挙げると言われます。開花前に巣箱を設置すると、周辺の他の花に通い慣れて、後日梨の花が咲いても振り向かない現象が起きるからです。満開後にさらに少数の巣箱を追加して、効果があった例も報告されています。事前に近くの蜜源となる雑木や雑草の花を刈り取ることも勧められているようです。
色々チャレンジしてみる価値はあると思われます。
文責: 有限会社俵養蜂場 ビーラボクリニック