日本ミツバチのアカリンダニ症とその対策
アカリンダニ寄生の実態
日本ミツバチ飼育が盛んな一方で、アカリンダニによる群の崩壊が増え,分蜂群の捕獲も激減しています。日本ミツバチには寄生ダニの問題は無いとされていましたが、2010年にアカリンダニが検出され、2015年には全国への蔓延が確認されました。ちなみに元の宿主である西洋ミツバチには影響はありません。アカリンダニの権威、農業生物資源研究所の前田太郎氏が西洋ミツバチ3000検体以上調べた結果、茨城県と広島県で各1例ずつ確認しただけです。 元来の宿主の西洋ミツバチに見つからない理由は不明ですが、へギイタダニ駆除に頻繁に使われる薬剤によってアカリンダニも同時に駆除されているのかも知れないし、すでに抵抗性を獲得している可能性もあります。
ダニの繁殖生理・生態
群をアカリンダニで失わないためには、ダニの生態を知っておく必要があります。
アカリンダニは常時ミツバチの気管内に寄生します。雌ダニは気管の中で産卵して子ダニが生まれます。成長した子ダニは気管外に這い出して、毛の先端にとまり、別の成蜂が接触する機会を捉えてその蜂に移ります。わずか2〜3時間以内に起きる感染現象で、乾燥に弱いアカリンダニは気管の外では1日も生きることができません。このように、アカリンダニは成蜂から成蜂へ感染するため、新たに羽化してくる若い蜂は全て清浄です。春から夏の増殖期には、毎日老蜂が斃れてゆく一方で、それを補う数の若い蜂が羽化してきます。したがって目立つような被害が現れません。蜂の更新が少なくなる秋から越冬蜂が巣内で密集する冬の間に大量死するのはそのためです。
西洋ミツバチのへギイタダニ駆除に使われる接触剤は外部寄生ダニには有効でも、ほぼ一生を気管内で過ごすアカリンダニにはよい効果が期待できません。また大半が重箱式飼育のため、接触剤の担体をミツバチが密集する所に挿入することができません。
そのためアカリンダニには気化または昇華した薬剤が気管内に吸入されることが必要です。それぞれの物質の特性によって、投与方法が異なリます。
メントール
天然ミントとしてハッカに含まれ、メントール結晶として安価で市販され、人にも蜂にも安全。昇華したガスが巣内空間に充満して効果が現れます。ただし適度に昇華する温度は16〜26℃で冬には熱源で温めて昇華を助ける工夫が必要。そのままではあまり効果は期待できません。
チモール
ハーブのタイムなどに含まれる成分で安全。西洋ミツバチのへギイタダニ駆除剤で液化チモールをフローラルフォームに浸したアピライフバーとゲル状のアピガードがあり、アカリンダニにも有効。なお動物用医薬品のチモバールは結晶で、気温が低いと十分昇華しません。その分長持ちするので、春~秋に予防的に使われるべきです。
蟻酸
腐食性が強い危険物で、ゴム手袋・防毒マスク・ゴーグル着用で材料を調整します。
投与にもゴム手袋をして慎重に臨む必要あり。
浸透性があり最も高い効果が期待できるが、蜂へのストレスも大きい。
感染群はふつう1回の投与で劇的に回復する一方、重症で衰弱した群が消滅することもあるので、群がまだ大きい感染初期の間に投与することが重要。
投与方法
気化したガスは空気より重たく、ゆっくり下降するので、巣箱上部に薬剤を置きます。重箱式巣箱の場合、蓋の下にすのこを敷いて1cm以上の空間を確保する必要があります。重箱上段の貯蜜が、気化ガスが下降する隙間が無いほど一杯の場合は、採蜜してから投与する方が効果的な場合もあります。
医薬・医療機器法との関連
(医薬品・医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律=旧薬事法)
アカリンダニ用に認可された動物用医薬品はありません。アピスタン・アピバールは西洋ミツバチのへギイタダニ駆除薬として承認された登録動物用医薬品で、日本ミツバチのアカリンダニへの効果は不明です。上記の各物質(メントール・ギ酸・チモール)についても、効能を唱えて販売することも違法です。したがって投与法・投与量も示すことができませんが、養蜂家が自己責任で投与することに法律上の問題はありません。ただし,蟻酸は強い腐食性があり、取扱には十分な注意を要します。
なおアピライフバー・アピガードは我が国では未承認の動物用医薬品ですが、弊社獣医診療施設で使用する条件で農水省の輸入許可を得たものです。販売はできませんが、診断の上処方することができます。