雄蜂用巣礎のすすめ

 雄蜂は群の維持には欠かせない雄性遺伝子の提供者で、無用の存在ではありません。
近年はこれに別の役割が加わっています。薬剤耐性ヘギイタダニが蔓延した結果、これに頼らない対策として、雄蜂巣房にダニを誘いこんで処理するトラップ戦略が考案されています。また主に化粧品に使われる蜜ロウが、殺ダニ剤の残留によって価値を失った今日、雄蜂巣房トラップは残留の恐れがないダニ駆除法としての意味もあります。


※写真は巣礎・巣枠が一体化したプラスチック製品。反復使用ができるが巣盛りが悪く、環境汚染が問題視される今の時代には合わない。弊社では蜜ロウ製を採用。

1. 他の巣脾を働蜂巣房に保つ

 ミツバチは繁殖期には、90%が働蜂卵、約10%が雄蜂卵として産卵される。そのため働蜂の巣房も雄蜂巣房に改造されやすくなが、始めから雄蜂房の巣礎を与えておけば、そこ以外に雄蜂卵を産まなくなり、働蜂巣房100%の巣脾が得られる。雄蜂巣礎が与えられた群の雄蜂の数は、そうでない群の数を平均的に上回る。成熟した雄蜂が多い蜂場では、交尾が早く交尾成功率も上がると言われる。

2. ミツバチの改良のために

 蜜を集めない・攻撃的・分蜂し易いなど望ましくない性質の群は、女王蜂を優良な系統の女王蜂に代えることで問題が解決する。一方、そのような群の雄蜂も、放置すれば交尾を通して他群の次世代の性質にも影響を及ぼす可能性がある。それを防ぐために雄蜂巣礎を使って産卵させ、雄蜂が羽化する前に巣脾を処理する方法がある。 逆に、おとなしく、よく蜜を集め、繁殖力が旺盛な群の雄蜂はできるだけ残すようにする。同じようにダニ対策に関する選抜戦略がある。まず一部雄蜂巣房の封蓋のを切る。ダニが寄生していれば、残りのすべての蛹を処理する一方で、寄生が無い群はそのまま羽化出房させる。蜂群全体の約10%には、ダニに抵抗性のある遺伝子を持つ系統があると言われ、その系統の雄蜂をできるだけ残し、弱い群の雄蜂を淘汰する作戦である。ミツバチは繁殖期には巣礎が与えられていない部分には、雄峰巣房を作る性質がある。ダニをトラップするだけなら、巣礎を張ってない巣枠や巣礎の下半分を切り取った巣枠与えれば雄峰巣房を作る。しかし、ダニ抵抗性遺伝子を持つ可能性のある群の雄蜂を残す戦略を加えるなら、やはり巣礎を与える方が便利である。

3. へギイタダニは雄蜂巣房を好む

 昆虫は「情報伝達化学物質=セミオケミカル」と呼ばれる様々な匂い物質を分泌する。これらは同じ種の昆虫個体間の情報伝達や繁殖行動などを支配する一方、寄生生物に一方的に利用されることもある。ヘギイタダニの場合はミツバチの幼虫が出す匂い物質に惹かれて、産卵のためその巣房に侵入する。

 母ダニは蜜蜂幼虫の巣房が蓋をされる1~2日前に侵入して、巣房底に潜む。

 その約60時間後、最初に雄ダニの卵を産み、その後約30時間に1個のペースで雌ダニ(娘ダニ)の卵を産む。子ダニが成熟すると,兄妹同士で巣房の中で授精が行われる。

 幼ダニは約7.5日で成熟雌になり、交尾後蜂と共に出房する。雄ダニと未成熟のダニは途中で死ぬため、成熟雌にまで育つダニは意外に少ない。働蜂房で育つ娘ダニは平均1,3〜1,4匹である一方、雄蜂房では約4匹のダニが育つ。雄蜂の幼虫は成長が遅く蛹期も3日長い。そのため幼ダニが栄養摂取できる期間が長く、母ダニはより好んで雄蜂巣房に侵入して産卵するため、雄蜂房のダニ寄生率は働蜂房の数倍から10倍に達する。 そこで、雄蜂巣房に雌ダニを誘い込んで産卵させ、雄蜂が出房する前に処理する「ドローントラップ法」が考案された。

4. ヘギイタダニをトラップする雄蜂巣枠の使い方

 女王蜂の産卵は春から初夏までが盛んで、その間のダニ寄生状態をモニタリングする有効な方法でもある。しかし、雄峰巣房への産卵が止まる秋以降は、シュガーロール法に代えなければはならない。一方、駆除だけが目的なら、桜の開花期頃に雄峰巣礎枠を入れる方がよい。遅れれば効果が半減する。継箱群になればもう一枚を追加する。

 産卵2週後には巣房が封蓋されるので、羽化する前に抜き出して48時間冷蔵してダニを殺す。(常温でも蜂児はすぐに死ぬが、ダニは数日間生き残る。)同時に代わりの雄蜂巣礎枠を挿入する。冷蔵後はそのまま群に戻せば、蜂が死蛹を処理してくれるが、ダニの寄生率を知るためには、その場で蛹を取り出して調べる必要がある。まず雄蜂の封蓋の一部(巣枠の約1/4)を切って蛹を振るい出す。赤いダニは白い蛹の体表上で簡単に見つかる。目視で0〜1匹までならそのまま巣脾を巣箱に戻してもよい。それより多ければ残りの蛹も全部切り出す。通常採蜜毎に行う作業であるが、仮に10日間も間隔が空けば大半が働蜂房に再侵入してしまう。遅れればかえってダニの繁殖を手助けする結果になってしまうので注意が必要である。(ヘギイタダニは羽化する蜂に伴って毎日補充される。それらのダニの内、経産ダニは数日後に、未経産ダニは約11日後に繁殖のために再び蜂児巣房に侵入する。)

 したがって、女王蜂には産卵場所が、ダニには産卵のために侵入できる無蓋蜂児が間断なく提供されている状態にするために、雄蜂巣脾は全巣脾の10%以上与えなければならない。ミツバチは必要以上の雄蜂を育てないので、多めに与えても群が雄蜂で溢れるようなことにはならない。シーズン終盤には蜜巣に変わる。

文責: (有)俵養蜂場ビーラボクリニック

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