蜜ろう=蜂ろう・Bees Wax

蜜ろうとは?

 

蜜ろうは働き蜂の腹部にある8個の蝋腺から透明な液体として分泌される物質で、蜂蜜からできる物ではない。蜜ろうは正確には「蜂ろう」と呼ぶべきかもしれない。事実、英語をはじめどの言語でもそうなっているため、我が国の研究者の間では蜜ろうに代えて「蜂ろう」と言う用語が使われている。

 羽化後12日~18日の働蜂はろう腺が発達し、巣作りに専念する。分泌された蜜ろうは空気に触れて固まり、薄い鱗のような形になる。彼らはこれを口でくわえて巣房を盛り上げ、蜜を一杯に蓄えた後、最後に蓋をする。(蜜蓋)その間、透明な蜜蝋には花粉の色素が混じり、黄色や橙色やその他の色に変わる。

 遠心分離機で貯蜜を分離する前に切り取られた蜜蓋は、圧搾され、水と共に火にかけて溶かされ(融点64℃)、ゴミや澱を除いてブロック状に固められる。

 ミツバチは蜂蜜10gを消費して、1gの蝋を分泌して巣作りすると言われる。

 しかし、養蜂家はふつう蜜蓋部分だけを採取するので、実際にブロックになる量はもっと少ない。蜂蜜を100kg採取する間に、2~3 kgの租ろうが採れる。以下に示すような複雑な組成の混合物で、独特の芳香を持つ。この粗ろうは専門の工場に運ばれて、各用途別に精製加工される。精製と言っても、活性炭や過酸化水素など無害な物質を使って脱色される安全な処理である。

蜜ろうの組成

成分構成構成比
脂肪酸エステル53種類 43%
炭化水素76種類 10.5%
ヒドロキシエステル50種類 12%
酸エステル52種塁  3%
遊離脂肪酸18種類  8%
遊離アルコール  1%
未同定成分7種以上  6%

用途

 近世まではヨーロッパのキリスト教会を中心に使われる蝋燭が利用の大部分を占めていたが、現在はそれに代わり化粧品の用途が最大となっている。

 蜜ろうにはパラフィンより融点が高い一方で軟化点が比較的低い性質があり、口紅やクリームの材料に適している。また特有の粘性があり、ひび割れを起こし難い特徴が重要で、ハゼろうで作られる和蝋燭にも10%程の東洋種みつばちの蜜ろうが混ぜられる。実際のところ、他の物質に少量混ぜて使われる用途は数知れず、わずか1~2%加えるだけで格段に品質が向上する製品もある。

 食用に使うことできる希なろうで、ケーキのカヌレは有名である。しかし、やはり圧倒的に化粧品への利用が多いことは言うまでもない。

用途別推定値

化粧品製薬蝋燭その他
40%25~30%15~20%15~20%

蜜ろうの問題

 わが国で生産されるほとんどの蜜ろうが、現在では市場価値を失っている。1980年代ごろまでは、国内で生産された蜜ろうは100%集荷業者によって買い上げられ、その約半量が巣礎の再生産に回され、残りは製薬会社に向けられた量がこれに続いた。トップユーザーは痔疾薬のメーカーであったと言われる。

 その後、巣礎は初めは台湾製、後に中国製に取って代わられ、国内ではほとんど製造されなくなった。一方では蜜ろう自体も輸入品になり、国産品はまったく使われなくなってしまった。蜜ろうの中にヘギイタダニ駆除に使用される殺ダニ剤フルバリネート(アピスタン、マブリック)が残留するためである。

 もっとも、このダニはオーストラリアを除く世界の4大陸に蔓延していて、どこでもこの薬剤は使用されている。そのため、国内唯一の蜜ろう専門メーカー(三木化学・兵庫県姫路市)では、大半の租ろうをアフリカから輸入している。野生群または薬剤不使用の自然養蜂から産出された蜜ろうであることが理由である。俵養蜂場ではフルバリネート製剤の使用を10年以上前に止めている。

 なお、日本ミツバチにもアカリンダニが蔓延しているが、駆除には有機酸やエッセンシャルオイル油成分が使われるので化学物質残留の問題は起こらない。

文責: (有)俵養蜂場ビーラボクリニック

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