日本ミツバチの病気
かつて特に病気は無いと思われていた東洋種ミツバチ(Apis cerana)にも、近年西洋ミツバチ(A.mellifera)と同様に色々な感染症があることが判ってきました。亜種の日本ミツバチでは、2006年頃、九州南部に発生したウイルス病サックブルードが全国に広まり、「子出し病」の名で定着しました。2010年頃からは、アカリンダニが日本ミツバチに寄生し始めました。元々は西洋ミツバチを宿主とする寄生ダニですが、西洋ミツバチには、ほとんど寄生しておらず、実害は無いように思われます。一方、日本ミツバチの被害は深刻で、越冬中の大半の群が全滅すると言われます。両種のミツバチが共存した長い歴史の中で、なぜ突然日本ミツバチに寄生し始めたかは判りませんが、同じようなことが過去に起きています。1959年、日本ミツバチのヘギイタダニが西洋ミツバチに寄生していることが判りました。以降、全国に、そして世界中に拡散して、今も最も被害の大きいダニとして扱われていますが、最初の発見は明治時代に西洋ミツバチが導入されてから、すでに数十年経過してからのことです。
病気蔓延の原因
1.蜜源環境の変化
蜜源植物の減少による花粉・花蜜不足→栄養不良→病気への抵抗力低下
2.農薬散布の影響
- 急性中毒とその後の慢性的被害(汚染花粉の採集蓄積・飲水の汚染)
- 致死量に至らない極微量による
①中枢神経系への影響(定位飛行能力・日齢別の分業パターンの変化)
②免疫力低下(病原体による発症リスクが高まる)
3.西洋みつばちの導入
もともと環境には存在しない種の導入によって病原微生物や寄生生物が元の宿主から新しい宿主を獲得するケース
- へギイタダニ Varroa desctructor; 東洋ミツバチ→西洋ミツバチ
- 新型ノゼマ病Nosema ceranae; 東洋ミツバチ→西洋ミツバチ
- トゲダニ Tropilaelaps clareae; オオミツバチ→西洋ミツバチ・東洋種
- ウイルス病;変異株の出現 TSBV, CSBV, DWV
4.西洋ミツバチの飼料や巣材の利用
未知の病原体への感染機会を増やす原因のひとつEFB(ヨーロッパ腐蛆病)の感染確認(2012年インド、2013年香川県)
ミツバチの病気感受性比較(西洋種ミツバチM vs東洋ミツバチC 感受性比較)
病名 | 感受性 | 感染力 | 予防・治療 | 備考 |
ヘギイタダニ症Varroa destructor | M+++ C +− | M; 群の崩壊ウイルス感染 | フルバリネートアミトラズ外 | 元の宿主はC C; 駆除無用 |
ヨーロッパ腐蛆病EFBMeliscoccus pultonius | M+++ C +- | 病原性低いが再発性あり | 抗生剤OTC | 法定伝染病 C;国内発生確認 |
アメリカ腐蛆病AFBPaenibacillus larvae | M ++ C − | M; 強い感染力芽胞形成菌 | 抗生剤の投与 OTC | 法定伝染病 |
ノゼマ病Nosema ceranae | M ++ C + | M; 成蜂が死亡 C; 症状不明 | フマギリン (未承認抗生剤) | 抗生剤は胞子に効果なし |
サックブルードSBVSac brood virus | M + C +++ | M; 早春に発生 自然治癒 C;強い感染力 | ウイルス性効力ある薬剤無し | C; 感染力強く重症90%以上の群崩壊 |
ウイルス性麻痺病 IAPV、CBPV、ABPV | M + C + | M; 散発発生重症例あり | 同上 | ダニによって媒介 |
5.病気の予防対策(西洋種・東洋種共通)
- 感染機会を減らす。
①蜂蜜を給餌しない。
②盗蜂を防ぐ工夫をする。
- 強群を保ち、病原菌への抵抗力を維持する。
①多数群を1ヶ所で飼育せず、蜜源・花粉源に適合した群数を保つ。
②オフシーズンの給餌。(糖液・代用花粉・滅菌処理花粉を使う。)
- 症状の出た群の早めの処分。
- 巣脾の更新に心がけ、古い巣脾をあまり長く使わない。