養蜂スタートQ&A・よくある質問20

 専業養蜂家の飼育法を参考に、本州瀬戸内地方の気候を前提に書きました。異なる地方では、それぞれの地域の養蜂家のアドバイスを求めてください。養蜂の専門用語は「」でとじて簡単な解説をつけました。

Q1:巣箱を設置する場所の条件は?

A:郊外の広い場所が最適です。庭先養蜂はよく検討してから決めてください。道路や隣家との境界までおおむね10m以上あればまず安心です。ミツバチが近隣や通行人を刺すというような事故は、初めからおとなしい系統のミツバチを飼うことで回避できます。問題は脱糞です。ミツバチは飛びながら排泄するので、近所に駐車場や洗濯物を外に干す家があるとやっかいです。最近は太陽光発電のパネルへの糞害が問題になるケースも増えています。境界に沿って塀や生け垣などがあり、南または東向きで、冬は日照、夏は木陰のある落葉広葉樹の下などが理想です。なお一度設置した巣箱を近距離に移動すると蜂が迷います。どうしても再移動が必要な場合は、一度2km以上離れた場所で数日間蜂を飛ばした後に元の場所の別位置に置きます。

 蜜源からの距離は当然近い方が有利ですが、近くに花がなければ数km先でも飛んでゆきます。農作業の邪魔になるかも知れない圃場から離して、永続的に使える目立たない場所に設置するべきです。おおむね2km以内なら西洋ミツバチの通常の行動半径に入ります。

Q2:農薬散布する圃場からどれだけ離れていれば影響を受けないで済むか?

A: 農薬の種類・散布方法・地形・風向きなどで異なります。防除の対象が開花中の蜜源または花粉源作物であれば大きな被害は避けられません。しかし、その時期に周囲に豊富な蜜源植物が開花していれば、影響は少なくなるでしょう。

 野菜作りが盛んな三浦半島では、2km以上離れた半島北部でも、南風が吹くたびに蜂が減ると訴える養蜂家があります(ドリフト現象)。現在稲作に使用される殺虫農薬は、ネオニコチノイドと呼ばれる水溶性の農薬が主で、土壌や水を汚染して広く且つ長期の影響があります。また根から植物体内に吸収されて花蜜や花粉にも移行するため、成蜂はもとより群の蜂児の体内にも取り込まれると考えられています。しかし、その被害の詳細な実態はいまだ不明です。

 夏には、ミツバチは、水を吸って巣に持ち帰り、巣脾を冷やす作業をします。蜂場に農薬汚染の無い新鮮な水場を設けてやることが大切です。

Q3:群の内検(内部観察)をする頻度は?

A:季節毎に異なるケアが必要で、一概に何日おきに内検が必要とは言えません。 

 初心者のうちは、毎日でも蓋を取って巣箱の中を観察することをお勧めします。日々新しい発見があるはずで、花粉や蜜の収集の様子が判り、働き蜂のダンスや女王蜂の産卵が観察できます。桜が咲き始めたら、少なくとも1週間に1回は内検してください。蜂が増えて空巣脾や巣礎枠を入れ、さらに継ぎ箱を置く必要が出て来る時期にあたります。桜が終る頃には採蜜できる群も現れます。

 一方、冬は充分に貯蜜を持たせて冬囲いを済ませた蜂群は、真冬に蓋を開けてみる必要はありません。2ヶ月以上そのままにしておくこともできます。

Q4:蜂に刺されないようにするにはどうすればよいか?

A:稀に刺されることは避けられません。慣れれば素手で扱えるようになります。一般には次のような注意が必要です。

  • おとなしい性質の系統の蜂群を選び飼育する。群によって大きな違いがある。
  • 雨または低温の日や時間帯を避け、蜂が野外で活動している時に内検する。
  • 適宜タイミングよく燻煙器を使用して警戒蜂を静める。
  • 不用意に蜂を潰さないように作業する。つぶれた蜂の毒嚢の表面からは攻撃箇所を示すフェロモンが空中に広がり、蜂をさらに興奮させる。 
  • 刺されたら爪先で引っ掻いて針を抜く。指で摘むと毒を絞り出すことになる。

Q 5:蜂が荒くてよく刺される。どうすればよいか?

A: 蜂の扱いの上手下手が影響します。しかし、複数の群の中で特に攻撃的であれば、元々荒い性質の遺伝子の群とみなしてまず女王蜂を淘汰すべきです。

 無王にした群は隣の群と合同すれば40〜50日で攻撃的な蜂はいなくなります。群の数をそのまま保ちたい場合は、別のおとなしい遺伝子を持つ女王蜂を、この問題の群に育てさせます。別群から蜂児枠を抜いてこの群に導入して変成王台を作らせ、別の巣枠に作られた変成王台をすべて取除きます。

 約13日後に新女王が生まれ、1〜2週間以内に交尾をして産卵を始めます。他の群の処女王蜂との交尾を避けるために、攻撃的な群の雄蜂も淘汰します。それ以上望まない雄蜂が生まれないように雄蜂の蛹も切除します。そのために始めから全群に雄蜂巣礎を入れておくと便利です。おとなしい性質の群の雄蜂の蛹はもちろんそのまま残さなければなりません。

 世界には専門の女王蜂ブリーダーがいて世界各国に輸出しています。驚くほどおとなしいので、種母王として購入するのもひとつの方法です。

Q 6:えさはいつ与えるのか?

A:季節や飼育場所によっては、貯蜜が減って給餌が必要になる場合があります。真夏と早春に給餌することが多いのですが、貯蜜が十分あれば必要ありません。

 ショ糖液(砂糖水)と果糖ブドウ糖液糖があり、専用の給餌器があります。

 花粉または代用花粉は、野外から搬入される花粉の不足を補う目的で与えます。

 糖液はもっぱら働き蜂の活動を支えるカロリー源として、花粉は幼虫の生育と若蜂の成熟・ローヤルゼリーの分泌に必要なタンパク源として利用されます。

 ただし、充分に花粉が採集される所では必要ありません。専業家はそんな所に巣箱を移動します。ふつう桜開花の約1ヶ月半前(産卵開始時期)から、花粉または代用花粉の投与を始め、桜の開花までは連続して与えます。始めは少量で次第に摂取量が増えてきますが、桜の花粉を集め始めると急に摂取速度がにぶります。野外の新鮮な花粉の方を好むのは当然で、そこで投与は止めますが、その間約1kg/群消費します。 

 夏は花粉が枯渇する7月末から秋の花が咲くまでの約1ヶ月半が投与のシーズンです。同じく約1kg/群程度消費します。

Q 7:女王蜂が見つからない。産卵もない。無王群をどうすればよいか?

A:初心者に多い質問の代表格です。

 旧女王蜂が分蜂で失われても、群には「更新王台」が作られていて、すでに新女王蜂(処女王)が生まれている(出房)か、出房直前のはずです。

 処女王蜂は出房後1〜2週間内に交尾をした3日後に産卵を始めますが、その間は卵が無くなります。色々な原因で旧女王蜂が失われると、数日以内に「変成王台」が作られます。その13日後には処女王が生まれます。処女王は交尾飛行が近づくにつれ、腹部が小さくなり、働き蜂と見分けがつき難くなります。おまけに敏捷に動き回り、すぐに陰に隠れます。この頃に処女王を捜しても見つかることは稀です。初心者の方はこの頃に女王蜂を注文されます。しかし、群に既に処女王が存在するかぎり、他の群からの女王蜂が群に受け入れられることは決してありません。導入王かごの中で死んでしまうこともあります。

 無王群は内検すると「無王騒ぎ」(尾端から集合フェロモンを出し、羽で旋風して空中に送り出す音)をします。一方、姿が見えなくても産卵が無くても、処女王がいる群は落ち着いていて騒ぎません。それでもなお無王状態が疑われるのであれば、他の群から産卵巣脾を導入して,数日後に変成王台の有無を確認します。王台が無ければ、姿が見えなくても処女王が存在していることを、変成王台が出来ていれば実際に無王であると言うことを示します。

Q 8: 群の数を増やしたいが、いつ群を分ければよいのか?

A : 桜の頃からいつでもできますが、あまり早くから「群を割る」(分ける)と採蜜量が減ります。しかし、4〜5月中に更新王台ができていれば、2枚程の蜂に分けて養成する手もあります。約2週間以内に交尾して産卵を始めます。これを女王蜂の「完成」と言い、群は初夏ごろには6〜8枚群にまで増えます。

 しかし専業家は6月上旬頃までは継ぎ箱2〜3段の強群で採蜜に専念します。群を割るのはその後です。しかし、梅雨が明けて気温が連日30℃を超えるようになると、途端に女王蜂の交尾成功率が低下します。それまでに女王蜂を完成させなくてはなりません。ただし涼しい場所に移動すれば真夏でも交尾します。大規模経営の養蜂家が北海道まで移動するのはそのためでもあります。

Q 9: 継ぎ箱はいつ乗せるか?

A:冬の間、育児箱一段にして蜂を飼うのは、2段継ぎ箱のままだと蜂の数に対して空間が広過ぎて巣箱内の温度が保てないからです。

 気温さえ上がればいつでも継ぎ箱群に仕立てることができます。ふつう桜の流蜜で6〜7枚程度まで蜂が増えた頃に2段群にします。蜂児巣や蜜巣はすべて継ぎ箱に移して、下段の育児箱に空巣脾又は巣礎枠を入れます。継ぎ箱に空巣脾や巣礎枠を入れても,巣枠上桟と貯蜜で盛り上がった巣房に妨げられて女王蜂は継ぎ箱に上がることができません。働き蜂も必ずしも継ぎ箱の空間を認識しません。それを知らずに「充分に巣脾を与えたのに分蜂してしまった。」と嘆く初心者は少なくありません。自然の営巣ではミツバチは天井から下方に巣を作ってゆきます。それと同じような条件を与えてやることがポイントです。

Q 10: 採蜜はどれくらいの間隔ですればよいか?

A:誰にも判りません。場所や天候によって大きく異なります。花が咲いて天候が良くても、低温で「流蜜」(花が蜜を分泌すること)が無いこともあります。

 ふつう桜の開花と共に最初の「流蜜」が始まり、その後6月中旬頃までは流蜜が続きます。場所によって蜜源植物が異なりますが、アカシア・みかん・そよご・エゴノキ・モチノキ・クリ・ミズキなどです。その後も夏の花(リョウブ・カラスザンショウ・アレチウリなど)が流蜜する地方もあります。この間、充分な蜜が貯まるには、数日から2週間、悪天候ならそれ以上かかります。

 しかし、2週間に1度採蜜すれば分蜂で蜂を失う恐れはなくなります。蜜蓋が少なくても、2週間経てば糖度はふつう78度まで上がり、採蜜後に発酵する懸念はなくなります。ただし、真夏の蜂蜜には糖度が上がらないものもあります。

Q 11:分蜂で蜂を逃がしてしまわないようにするにはどうすればよいか?

A:分蜂は蜂群が若い女王蜂に更新しようとするための自然現象ですが、収穫を減らさないためには絶対に許してはなりません。旧女王蜂と共に群の30〜70%の成蜂が飛び去り、その後は蜜が貯まらなくなってしまうからです。

 女王蜂が産卵するための空巣房が不足すれば、更新王台が形成されます。旧王(母王)は、分蜂前から卵巣が萎縮して産卵が止まり、体も軽くなり、いつでも飛び立てるようになります。これを防ぐための対策があります。

  1. 分蜂熱(更新王台形成)が起きる前に充分な空巣脾を与える。春に6枚以上の蜂児枠(産卵育児巣脾)ができれば、早めにすべての巣脾を継ぎ箱に移し、下段の育児箱に空巣枠または巣礎枠を入れる。
  2. 遅滞なく採蜜する。遅れれば王台を作り始め、採蜜して空巣房が増えれば、自然に王台形成を中止する。
  3. 早めに新王に更新する。新女王に切り替わった群は容易には分蜂しない。(旧女王蜂を処分または別群として分け、元群に更新王台を一つだけ残す。)
  4. 女王蜂の翅を切れば、一次分蜂(旧王分蜂)に伴う働蜂の消失は防ぐことができるが、分蜂現象を止めることはできない。一次分蜂群として飛び出た蜂は、飛べない旧王を地面に残したまま元の群に戻る。群の混雑変わらず、引き続き娘処女王の分蜂(二次分蜂=未交尾分蜂)が起こる可能性があり、そのリスクはむしろ高まる。分蜂を抑えるには採蜜することが最も有効。
  5. 分蜂性は遺伝的な要素による影響が強い。分蜂し難い性質の女王蜂の確保が有効。優れた性質の輸入女王蜂もある。

Q 12:腐蛆病の予防対策は必要か?そうであればどうすればよいか?

A:AFB(アメリカ腐蛆病)とEFB(ヨーロッパ腐蛆病)があり、どちらも発育途上の幼虫が斃死しますが病原菌の種類も病気の症状も異なります。家畜法定伝染病に指定されていて、病気が発生すれば届け出の義務があり、都道府県の家畜保健衛生所が所管しています。我が国では予防のために抗生剤が使われていますが、海外では禁止されている国もあります。

養蜂家が以下の注意を守れば必ずしも必要ありません。

  1. 産卵育児圏が正常であるかどうか、常々観察することを習慣づける。
  2. 他所から蜂群を買い足さない。(病気が潜伏している恐れがある。)
  3. 近くに放置された蜂群がないか常に注意する。(崩壊群から蜜を持ち帰る。)
  4. ハチミツを餌にして与えない。必ず砂糖や液糖を使う。(主な感染源)
  5. 他人から古い巣脾を譲り受けて使用しない。(主な感染源)

Q 13:隔王版を使う方がよいか?どう使えばよいか?

A:遠心分離機の機種によって判断が分かれます。機種は飼育群数で決まります。ふつう専業家は巣脾8〜9枚が放射状に入るラジアル式遠心分離機を使って、蜂児圏を含む蜜巣脾も採蜜します。遠心力が巣房の向きに直角に働くため、蜂児が振るい出される恐れはありません。一方、小型の分離機(タンジエンシャル式)は遠心力の方向と巣房の口が外側を向くために、蜂児が蜜と共に振るい出されます。そのため隔王板を使って、蜂児の無い貯蜜巣枠を作るのです。

 しかし、隔王版を上手に使うには注意が必要です。標準のラングストロス式巣脾の片面には約2,000の巣房があります。育児箱に空巣脾が9枚あるとすれば、2,000×18面の巣房に産卵できます(蜜や花粉の貯蔵巣房もあり、実面積は約8割)。女王蜂は繁殖期には毎日約1,500個産卵し、その卵から働き蜂が羽化するまでに21日要します。したがって、計算上巣脾は毎日1面ずつ産卵で埋まるため、9枚巣脾18面では足りなくなります。育児箱と継箱の間に隔王板を置けば、分蜂熱を起し易くなるのはそのためです。貯蜜がまだ不充分に見えても、整理のため2週間経てば採蜜してください。糖度は78度以上あります。採蜜後の空巣は下段の育児箱に入れて、反対に育児箱の蜜巣と蜂児枠をすべて継箱に移します。そうすればシーズンを通して分蜂の恐れなく採蜜を続けられます。理想的には3段継ぎの群を作って、2段目と3段目の間に隔王版を入れれば、分蜂熱は起こりません。採蜜量も増えます。

Q 14:ダニ駆除はいつどうすればよいか?どんな薬剤をやればよいか?

A:へギイタダニ対策は、最も重要な養蜂技術の一つです。養蜂を成功に導くには、蜂の生態に関する知識以上にダニに関する知識が必要です。(別資料あり)

 薬剤耐性ダニの蔓延によって、漫然と市販駆除剤を投与するだけでは対処できなくなっています。ダニは進化の過程でミツバチのライフサイクルにリンクして寄生するライフサイクルを獲得しています。まず彼らの生態を知ることが重要で、そこから対処すべき戦略が生み出されます。

 対策にはいくつかのキーポイントがあります。

  1. 「ダニは見えない、縮れ翅の蜂はいない」は「ダニはいない」を意味しない。                          それらの症状はすでに重症であることを示していて、手遅れの場合もある。症状の現れないうちに対策することが重要。
  2. 「薬を投与したので,まずは安心」は誤り。ほとんど効果が現れない耐性ダニも多い。投与時期が限られる薬剤もある。
  3. 雄峰巣礎法またはシュガーロール法でダニ寄生率をモニターする。(別資料)早期に確認して必要があれば対処すると同時に、薬剤耐性ダニの発生を少しでも遅らせるために、寄生率が低い場合にはあえて投薬を避ける。
  4. 投薬は、晩秋・早春など、群にできるだけ有蓋蜂児のない時に実施する。
  5. できるだけ投薬以外の対策を取り入れて、総合的に対策する。(IPM)
  6. できるだけ手持ちの蜂の増殖に心がけ、他所からの蜂の購入を避ける。
  7. 不用意な合群をしない。ダニがいないことを確認してから実施する。
  8. ダニの寄生率が低い群の雄蜂房を残し、ダニの多い群の雄蜂房を切除する。
  9. ダニ寄生率の低い群から,次世代の女王蜂を養成する。
  10. 農薬による安易なダニ駆除を試みないようにする。蜂を殺してしまうこともあり、蜂蜜中に残留するする恐れもある。

Q 15:越冬準備はどうすればよいか?

A:気候条件によって越冬準備の方法が異なります。

 寒冷地では春まで蓋を取って見ることができません。できるだけ大きな群に仕立てて、十分な貯蜜枠を持たせておくことが重要です。本州西部の太平洋側では、通常5枚群であれば冬は越します。断熱材で囲えばさらに安心です。

 まず余剰な空巣脾を除いて蜂を密集させます。蜂がまばらな状態でいると、結晶した貯蜜を残しながら餓死することがあります。巣房に頭を突っ込んで死んだ場合がそれです。蜂が密集していれば、全体の体温で溶かして利用します。巣箱の外側を覆っても、あまり大きな保温効果は期待できません。弊社では密集させた(抑えた)群を、巣箱内で厚手のビニールで包んだ断熱材で囲います。蜂を抑えれば温度が保たれ春の産卵も早まります。巣門は5cm程に縮小します。

 真冬でも、好天であれば2〜3時間は蜂が飛び交うような日があります。そんな日と時間帯に、死蜂が巣箱底に落ちているか、貯蜜が充分にあるかどうかなどを点検します。蜂が減っていれば巣脾を抜き上げてさらに蜂を抑えます。貯蜜が減っていれば、軽くなった巣脾を蜜巣脾と入れ替えます。厳冬期には糖液を与えても食べません。秋の内に必要な蜜巣を確保しておきます。巣箱内部を冬囲いすれば内検も簡単です。冬の間2回程実施して下さい。冬囲いは桜の開花に合わせて撤去します。

Q 16:越夏対策は?

A:ミツバチの適温は16℃〜25℃で、近年の猛暑は群を極度に衰退させます。

 花粉源・蜜源になる植物も不足するので、専業養蜂家の多くは北海道や標高のある涼しい地方に移動します。低地で乗り切るためには工夫が必要で、直射日光を避けて木陰で飼うか、人の手で陰を作ってやります。構築物の設置が難しい所では、巣箱の蓋にアルミシートを張り付けると日光を反射してくれます。場所によっては水場が必要です。木陰の水槽に水を張り、ウキを浮かべて溺死を防ぎます。水温を低めに保つ上で大きな瓶が理想です。ボウフラの繁殖を防ぐためにメダカを飼育し、産卵に必要な水草も植えてください。

 誰でも気が付きやすい貯蜜不足と異なり、花粉の不足は見逃されがちです。花粉は蜂児の食糧であるだけでなく、成蜂の健全な働きを維持し、免疫力を保つために必要な蛋白質・ミネラル・ビタミン類の重要な供給源です。1分間巣門を閉めて観察すれば、外役蜂が花粉を持ち帰る割合が良く判ります。足りなければ花粉や代用花粉をパテにして巣箱の中で与え、群勢の維持に努めます。

Q 17:スズメバチの対策をどうするか?

 都市部ではスズメバチの営巣に適した場所が少なく、被害は多くありません。襲来が多いのは、彼らの営巣場所に恵まれた山林が近い蜂場です。ミツバチを襲うスズメバチは3種類あり、被害が大きいのはオオスズメバチとキイロスズメです。コガタスズメバチは数も少なく、被害はごく軽微です。

 オオスズメバチは2〜3匹から10数匹の集団で盆頃から巣箱を襲い始めます。ミツバチも巣から這い出して防戦しますが、圧倒的な力の差で巣門前に死骸の山が築かれて戦いは終ります。大きな群が1時間で全滅することもあります。捕殺器(トラップ=もんどり)、粘着シート、防御器(中年の門番など)いくつかの防御法があるものの、どの方法も一長一短で完璧な方法ではありません。それらを組み合わせてなんとか対処します。詳しくは別に解説します。

 キイロスズメバチは巣門前の空中でホバリングしながらミツバチを捕らえます。1匹ずつ捕獲するので、蜂群が全滅することは稀です。とは言え、夏の日の夜明けから日没まで毎日数10匹から100〜200匹の来襲で蜂場全体の蜂が減ります。キイロスズメバチに対しては、捕虫網などで捕獲するより外に有効な手段がありません。捕殺器で捕獲できるのは、ごく一部に過ぎません。

Q 18:女王蜂の片翅を切除したい、マーキングしたい。そのやりかたは?

A:専業家の多くは早春の小春日和を見計らって、翅切りを実施します。初心者には少し難しく感じられますが、素手でします。女王蜂保定器などの道具はかえって不便です。最初は雄蜂で練習するとよいでしょう。

  1. 利き手で女王蜂の翅を掴みます。(女王蜂の頭が別の手の方を向くように)
  2. 次に別の手の人差し指と親指で頭部・胸部を挟んで固定します。決して柔らかい腹部を掴まないようにしてください。
  3. 背中側は指で隠れないので、翅はフリーの状態で見えます。女王蜂の斜め後から鋏を入れて、片翅の斜めに半分程度切り落とします。これでバランスを失い飛べなくなります。翅を根元から切ると産卵に影響することがあります。
  4. マーキングは群がまだ小さく、時間に余裕のある間に済ませておくと、繁忙期に女王蜂を捜す時に大きな助けになります。特にカーニオランなど黒色系の女王蜂にはほぼ不可欠の作業です。手順は翅切りに準じます。なお、国際的な取り決めで年により色が変わり、女王蜂の年齢も判る仕組みになっています。

Q 19:保管しておいた巣脾が巣虫に食い荒らされてしまった。どうすれば被害を防げるか?また食害された巣脾は再使用することができるか?

A:食害の程度が軽微であれば、再び群に戻して使うことはできます。巣そのものや貯蔵花粉だけを餌にするので、特に衛生面を気にする必要はありません。ただし、蜂が食害部分を補修すると、すべて雄蜂巣房に変えてしまいます。

 巣虫の成虫は夜行性の蛾で、知らない間に飛んできます。小さく薄っぺらな体で、ミツバチが入れない木部の割れ目のような所に産卵します。蜂群が充実している間は、働蜂に攻撃されるため決して巣虫がはびこることはありません。極度に蜂が減った時は別です。巣虫の食害は、通常途保存中の巣脾に起きます。巣虫は気温が高いほど成長が早く、真夏には短期間で巣脾を食い荒らします。

 これを防ぐためには、16℃以下の冷蔵庫で保存するか、2硫化炭素で処理した後、密閉して保存する必要があります。冷蔵はスペース確保が課題に、2硫化炭素は強引火性で危険な上、人体への安全性が問題になります。巣虫にだけ病原性を示す細菌利用の生物学的製剤(B401)があり、これが最も推奨できる方法です。我が国では弊社が特約販売店です。

Q 20:お勧めの養蜂技術解説書は…?

  • 新養蜂 徳田義信 ㈱実業図書

 昭和33年初版、昭和54年の第14版が最後の古典。著者は当時の農商務省・農業技術研究所)での唯一の研究者。ミツバチと養蜂に関する現行の専門用語の多くが、著者の創作や翻訳による。養蜂振興の立場からの技術解説が充実の歴史的名著で、現在でも参考になる内容が少なくない。残念ながら絶版。

  • 近代養蜂 渡辺寛・孝著 日本養蜂振興会出版 

 726ページの大著で飼育技術から経営に関する記述まであるが、現代の養蜂に当てはまらない部分もある。へギイタダニ対策の記述が少ない。

  • 新しいみつばちの飼い方 井上丹治著

 昭和42年発行、項目別に索引しやすく手引書として便利。ダニの記述が不足。

  • 新特産シリーズ、ミツバチ、飼育・生産の実際と蜜源植物

 イラストが多く使われていて、初心者には取りつきやすい解説書。誤った記述もある。へギイタダニ対策の記述がほとんどない。

  • 養蜂マニュアルⅠ及びⅡ みつばち協議会編

 平成22・23年度のミツバチ安定確保支援事業に基づく補助事業により、(独)畜産草地研究所、玉川大学、京都産業大学の研究者が中心に編纂。女王蜂の養成方法から病気やダニの解説まで最新の知見・技術が解説されていて、写真や図も豊富。みつばち協議会のHPからダウンロード可能。

  • 蜂からみた花の世界 佐々木正己著 海遊舎出版

 蜜源植物に関しては類の無い大著で、680種の植物が1,600枚の写真とユニークな解説によって紹介されている。第2部の解説編ではミツバチの解剖学・生理学・生態学などの多岐にわたる最新の科学研究成果を知ることができる。

  • 養蜂大全 松本文男著(専業養蜂家)誠文堂新光社出版

 2019年出版の新刊書。専業養蜂家の知識と技術が、豊富な写真・挿絵と共に判りやすく説明されている。著者自身の技術を紹介しながら、別の考えに基づく別の方法もあることを示唆する好感度抜群の優れた解説書。中級者にもお勧めの一冊。

  • 蜜量倍増・ミツバチの飼い方 干場英弘 農村文化協会出版

 元玉川大学教授で研究歴、養蜂歴も長い。ミツバチの養成に関して、我が国養蜂業界のの長年の誤りを科学的に説明してある効著。

  • 最後に…熱心な観察にまさるマニュアルはありません。
文責: (有)俵養蜂場ビーラボクリニック

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