養蜂スタート・よくある21の失敗
<専業養蜂家の知恵と対策について>
ミツバチの飼育には一般に知られていない多くの苦労が伴う一方で、想像以上の大量の蜂蜜が採れる楽しみもあります。しかし、経験豊富な養蜂家が1群で毎年数10kgもの蜂蜜を収穫するのに対し、初心者の収穫はあまりにも少ないものです。花の期間は短いのがふつうで、養蜂家は短期間に集中して蜂蜜を収穫します。養蜂は短距離競争に似ています。途中で転倒(失敗)すればそのレース(年)は終わりです。毎年群を全滅させ、毎年種蜂を買い直す人も少なくありません。失敗の多い人は、「蜂飼い」ではなく「蜂買い」であると自嘲します。そうならないために、以下に失敗の原因を分析し、対策についての参考資料(※青字)を示します。
▸蜂場設定の失敗
1 巣箱を設置したが、近隣から反対されて撤去するように言われた。
苦情の内容次第では諦める外にない場合があります。最も多いのが糞害の苦情です。ミツバチは空中を飛行しながら脱糞します。ふつう巣箱から10数メートル以上の距離を保てば、人への安全性に問題はありません。一方、糞害は数10m離れていても起こり得ます。問題は駐車中の自動車です。幸い洗濯した衣類を外に干す習慣はほぼ無くなりました。代わりに太陽光パネルを汚す問題が発生しています。蜂場の設営には充分な事前調査が必要です。
なお、とかく虫を嫌う人達からは、危険だと言う理由で巣箱の撤去を要求されることがありますが、法的には従う必要はありません。しかし、地主から「ご近所がうるさいので…」と言われた場合はどうしようもありません。※⑴
2 知人に山林を借りて養蜂を始めたが、近くに専業養蜂家の蜂場があった。
専業家には花を求めて移動する人達が多く、蜜源の無い時期に付近を調べても巣箱が見当たらない場合もあります。専業家は通常蜜源の競合を避けるために養蜂振興法に基づく飼育届けを済ませています。事前によく調べてから蜂場を設置し、後から問題にならないように飼育届けを提出しておくべきです。
趣味で少数群を飼う程度では専業家から苦情が出ることはありません。鷹揚な人からは、技術的なアドバイスを受けることもあります。しかし過度に蜂群を増やせば、お互いの収穫に影響が出ます。良い関係を築くべきです。
伝統的にニホンミツバチの養蜂家が多い地域もあり、むしろその人たちとの関係が問題になると思われます。
3 レンゲのある圃場に蜂場を設置したら、農薬の影響で蜂が減ってしまった。
稲作地帯や果樹園の近くでは飼育が難しくなっています。2000年代当初から使われ始めたネオニコチノイド系農薬の影響です。日本は農薬使用規制が緩い国の代表格で、できるだけ稲作地帯を避けた場所で飼育するほかにありません。
イミダクロプリド(製品名アドマイヤー)は苗代や田植後の水田に粒剤として、クロチアニジン(製品名ダントツ)やジノテフラン(製品名スタークル)は、稲の出穂期にラジコンヘリコプターやドローンで空中散布されます。
みかんなどの果樹には、大量のアミトラズ(製品名モスピラン)が使われるため蜂蜜にも残留します。果物の農薬残留基準値は緩く設定されている一方で、蜂蜜には厳しい暫定基準値0.01ppmが適用される問題もあります。
これらネオニコチノイド系殺虫剤の特徴は次のとおりです。
- 水に溶けて根から植物体に移行する(浸透移行性)。当然、作物や周辺の植物の花粉や花蜜にも殺虫成分が含まれる。訪花昆虫への影響は特に大きい。
- 水系全体が汚染されるので、まず水棲昆虫が全滅し、これを餌とする蛙、蛙を餌とする水鳥も姿を消した。吸水に来るミツバチにも大きな影響がある。
- 脊椎動物には安全であると言われ、我が国では農作物への残留基準値が緩いため使用量が多い。
- 死骸が見あたらないままに消えるように蜂が減ることが、他の系統の殺虫剤との異なる点であり、被害の実態が見え難い。※⑵
4 夏の暑さを避けるために高地に蜂場を設けたところ、熊に巣箱を襲われた。
全国的に熊が飛躍的に増えています。原因はいくつかありますが、木材需要の低迷を無視して続けられた植林政策も大きく影響しています。
- 保護政策の影響。兵庫県では一時60頭程度mで減ったために保護され、檻に捕獲された熊が保護のために解放され続けた結果、現在では推定800頭が生息していると考えられています。
- 山間地集落の人口の激減と高齢化により、山と里を隔てる中間地を越えて野生動物が侵入しやすくなった。
- 過剰に進められた植林が人手不足で間伐されず放置された。動物の食糧が豊富な自然林が減った上に、放置された植林地には餌になる下草も生えない。
- 高齢化で被害が熊撃ちのできるハンターがいなくなった。電気柵で蜂場全体を囲う外に手はありません。一度蜂蜜の味を覚えた熊は、なお執念深く柵の下を掘るか、傍の立ち木に登ってでも入ろうとします。素人の設置では、柵を突破されて侵入されることあります。最初から野生動物用の電気柵に詳しい専門家のアドバイスの元に設置した方がよいでしょう。
▸飼育管理の失敗
5 養蜂初年度なので、蜂蜜の収穫をせずに群を増やすことに専念したが、結局秋に全群が消滅してしまった。
蜂蜜の収穫と蜂群の養成は、問題なく技術的に両立する課題です。採蜜中も群勢を伸ばすことができます。ミツバチは常に悪天候や外敵に生存をおびやかされている生き物です。収穫できる時は収穫しておかないと、生産物と生産手段の両方を失ってしまう、「アブハチ取らず」の結果になる可能性があります。
また、蜂群の数が増えれば、必要な資材や器具も増えて出費が重なります。その費用捻出のためにも、翌年の計画を考える前にまず収穫を優先すべきです。
6月上旬頃までは採蜜に専念して差し支えありません。ただしその後は直ちに群を割り出して、増群を図らなければなりません。この作業が遅れ、連日気温30℃以上になる盛夏に入ってしまうと、花も減り、「完成女王」(授精済み女王蜂)の産卵は落ち込み、処女王は交尾飛行に飛び出なくなります。その前に完成女王蜂の群を確保しなければなりません。同時にダニ対策も実施しなければならず、養蜂家にとって梅雨時は仕事の多い鬱陶しいシーズンになります。
6 春から順調に増えていた蜂群が分蜂してしまった。
一度分蜂すれば、働き蜂の約半数が失われ、その後の蜂蜜の収穫が期待できなくなります。実際には分蜂する1週間ほど前から「分蜂熱」を生じて外役活動が停滞しています。当然その間は集蜜量が減ります。
分蜂熱の発生は女王蜂が産卵するための空巣房が足りないことを意味します。初心者は熱心に王台を取り除きながら、結局見落として分蜂させてしまいます。
分蜂を防ぐ決め手は、女王蜂が自由に産卵できる空巣房を確保することです。王台を作らない状態を保つことが先決で、それを取り除くことではありません。
王台形成が始まる桜の開花の頃、6枚群程に増えれば継ぎ箱群に仕立てます。
育児箱の巣脾を全部上の継ぎ箱に移して、下段に空巣脾や巣礎枠を入れます。蜂が増えれば女王蜂は自然に下に降りて産卵しますが、育児箱から継ぎ箱への移動は必ずしもスムースにはいきません。貯蜜が進むと巣脾が盛り上がり巣枠上桟の隙間が狭まり、女王蜂が通過し難しくなります。継ぎ箱に十分な空巣脾がありながら、利用されずに分蜂してしまうことがあるのはそのためです。
いくら蜂が増えても転地専業養蜂家を真似て、2段のままで飼う人がいます。実は転地養蜂家は後日の輸送を考慮して、やむを得ず2段で飼っているのです。
ふつう移動養蜂の専業家は隔王版を使いません。ラジアル式遠心分離機で蜂児巣脾も採蜜するので、採蜜後は十分な空巣房が群に戻ることになります。定飼の専業家は隔王板を使います。3段群の場合は2段と3段の間に、2段群には育児箱と継ぎ箱の間に隔王板を敷きます。ただし、2段群の場合は採蜜し終った巣枠はすべて下段に移して、下段の蜂児巣脾を継ぎ箱に上げます。つまり総入れ換えで下段を空巣脾で満たすのです。スペースが十分にあるため、女王蜂は産卵し続け、蜂が増えても容易には分蜂熱は発生しません。専業家の作業の形だけを真似るのではなく、その意図するところを学んでください。※⑶
7 なぜか産卵が少なく、群が大きくならない。
専業家は採蜜を終えると、すぐ来期にむけて群を分割して養成群を作ります。新しい群の養成は、新しい女王蜂に更新する作業でもあります。できるだけ毎年新しい女王蜂に更新することが望まれます。
若い女王蜂は平均的によく産卵しますが、2歳以上の老齢になると産卵数が減り、育児圏では蜂児の日齢がばらばらで、有蓋蜂児はモザイク状に不揃いなります。更新王台を作る傾向が強く、「分蜂熱」を生じて群の増殖が進まなくなります。できるだけ前年の内に女王蜂を更新しておかなければなりません。
なお体の小さい女王蜂は、若くても産卵能力に劣ることが多いものです。大きくて健康な女王蜂を養成しなければなりません。
8 6月にやっと継箱群になったが、結局あまり蜜は採れなかった。
満足な採蜜量を得るには、成蜂数3万匹以上の継箱群が必要です。新規に養蜂を始める際は、遅くとも桜の開花に合わせて種蜂を購入する必要があります。
アマチュア養蜂家の群は夏に衰え始め、秋から冬に全滅してしまいがちです。かろうじて全滅を免れて冬を越した群でも、春の繁殖は大幅に遅れます。花の期間を過ぎた頃にようやく群が大きくなり、結局収穫の機会を逃すのです。
一方、専業家は越冬地に移動して、いち早く強勢群を養成して春に備えます。定飼養蜂家には実行するにはハードルが高い課題です。そこで冬もある程度の群勢を維持し、初春には花粉などを給餌してさらに蜂を増やす必要があります。桜の開花前に5枚群(約1万匹)を維持していれば、散る頃には立派に継ぎ箱群に仕上がります。※⑷
9 前年より群の数を減ってしまい、来シーズン採蜜用の群が足りなくなった。
例えば毎年10群で春の採蜜をスタートする計画であれば、前年秋に20群程度の新しい群を確保しておきたいものです。女王蜂も更新された群のことです。
夏は酷暑や花粉源・蜜源の枯渇、ダニ、スズメバチ被害などミツバチには最も厳しい季節です。さらに秋以降は群が衰え続けることを想定しなければなりません。したがって翌年の飼育予定数を上回る数を準備する必要があるのです。冬を迎える前に全滅する群もあれば、越冬が難しいほど衰退する群も現れます。予定数のおおよそ倍の群を用意してちょうど間に合うと考えるべきです。
▸病気・寄生ダニ対策の失敗
10 気がついたらダニで蜂が増えなかった。いつのまにか群が小さくなった。
へギイタダニは西洋ミツバチ最大の敵で、多かれ少なかれほとんどの群に寄生していると考えなければなりません。ダニ自体の姿や特有の症状が見えるようになれば、すでに寄生が進んで重症化していることを示しています。常に寄生状態を監視していなければ手遅れになりがちです。寄生状況は雄蜂巣脾やシュガーロール法で簡単にモニターできます。
対策ができている群は、最盛期には3段にもなり採蜜量も倍増するものです。
現実には多くの養蜂家が気づかないダニ被害によって、本来もっと期待できるはずの収穫を減らしています。蜂が減り始めてやっと気づく頃には、群は急速に衰え、その後の収穫は絶望的になります。また越冬前にダニ対策を済ませた5〜6枚群(約1万匹)が残れば、越冬はそれほど難しい課題ではありません。年間を通してダニ対策が必要で、特に夏の間に駆除することが重要です。失敗の原因の大半がダニによることを知っておく必要があります。※⑸※⑹
11 春に購入した種蜂にダニが多くてアピスタンを投与したが効き目が悪い。 他の群にまで広がってしまった。
専業養蜂家の多くは、アピスタンと共に同じ有効成分(フルバリネート)の農薬マブリックを長年使い続けています。その結果、耐性を獲得した系統のダニが全国的に蔓延しています。アピバールにも耐性を示すダニが明らかに増えてきています。他の養蜂場から蜂を購入することは、このようなリスクが必ず伴うことを意味します。自前の蜂をしっかり管理して育成することが大切で、そのためにはへギイタダニ対策について、より深い知識と理解が必要になります。※⑹
12 アピスタンが効かない。アピスタン・アピバールを交互に使っているがダニが減らない。アピスタンに代えてアピバールを使っていたが効かなくなった。
いずれもダニが薬剤に耐性を獲得した結果です。世界的な問題であって、化学合成の駆除剤を使い続ければ、遅かれ早かれ起こる宿命でもあります。
異なる薬剤の交互使用は、耐性の発現を遅らせることには有効ですが、すでに耐性が現れている場合は意味がありません。世界では市販駆除剤に代わり、有機酸(シュウ酸・蟻酸)やチモールなどを使う対策が主流になっています。
また春に雄蜂巣礎枠を挿入して雄蜂卵をまとめて産ませ、蛹になった時点で封蓋を切除して雄蜂蛹もろともダニを叩き出す方法も有効です。ドローントラップ法と呼ばれています。我が国では雄蜂産卵が始まる桜の頃に始め、寄生率モニタリングしながら無投薬でダニ駆除をすることができます。色々な方法を組み合わせて対策しなければなりません。※⑺
13 養蜂をやめた人から譲り受けた蜂群・巣脾を使った(または古いハチミツ を餌にして与えた)ところ、病気の症状の群が現れた。
スズメバチの被害は一目瞭然で誰でも真剣に対処しますが、病気については適切な対策がとられない傾向があります。ミツバチには寄生ダニ以外にもアメリカ腐蛆病(AFB)、ヨーロッパ腐蛆病(EFB)、ノゼマ病、チョーク病、慢性・急性麻痺病など多くの病気があります。AFBは特に危険です。原因菌は増殖に適さない環境下では芽胞を形成し、感染力を維持したまま長期間生存します。蜂蜜の中で数十年も生存し、蜂蜜を給餌したことでしばしば集団発生します。
また高齢や病気が理由で養蜂をやめた人の群は、衛生管理が行き届いていないことが多く、それらの蜂群や資材を譲り受けることには注意が必要です。巣箱はバーナーで焼烙、巣脾はガンマ線照射すれば問題なく使えます。※⑻
▸巣箱の移動・輸送に伴う失敗
14 巣箱を近くの別の場所に移動したら、元の位置に大量の蜂が戻って来た。
ミツバチは太陽と蜜源と巣箱の位置を、いわば三角測量で感知して飛行し、正確に同じ場所に帰巣します。従って巣箱が元の位置にないと迷ってしまいます。
蜂場内の巣箱を仮に数メートル離れた位置に動かしたい場合は、毎日数10cmずつ巣箱を動かします。蜂は少々迷いながらも自分の巣箱に入ってゆきます。
それができない所では、一旦2km以上離れた場所に移動します。そこで数日間自由に飛ばした後に、元の蜂場の望む位置に移さなければなりません。
15 巣箱を別の場所に移動したが、輸送中に蜂が死んでしまった。
ベテランの専業家にとっても、蜂群の移動は最も神経をすり減らす作業です。
ミツバチは移動中寒さで死ぬことはありませんが、暑い時期の移動で全滅してしまうことがあります。巣箱に満杯の強勢群は特に危険です。蜂は外へ出ようとして金網窓に取り付いて騒ぎます。そうなると換気が遮断され、高温と酸欠で苦しむ蜂は出口を求めて走り回り、状況はさらに悪化します。羽音が金属音のように高く聞こえた後は、急に静まり返ります。全群が死滅した瞬間です。
移動養蜂家は巣箱を車に積み込んだらすぐに走り出し、ふつう目的地まで休憩しません。走行中は外気が金窓を通して入って換気ができますが、止まれば酸欠に陥りやすくなるからです。到着すればただちに巣箱を降ろして巣門を開けます。休憩はその後です。
▸その他よくある失敗
16 蜂が減ったので空巣脾を別に保管していたら、巣虫に食われてしまった。
ハチノスツヅリガと言う蛾の幼虫、通称「巣虫」の食害です。気温15℃以下であれば実質の被害はありません。近畿中部では、4月末〜10月末までが危険な時期です。特に気温が30℃近くなると、成長が早まり大きな被害がでます。
日本ミツバチは巣虫の侵入に対して抵抗が弱く、蜂がいる巣箱でも繁殖して、最後には蜂の方が巣を放棄して逃げ出すこともあります。西洋ミツバチの場合は、採蜜シーズンが終わって空巣脾を保管中に被害が発生します。巣脾が群の中にある間は心配ありません。そうでなければ冷蔵施設に保管するか、弊社販売のB401で巣脾を処理すれば問題なく保存出来ます。※⑼
17 女王蜂が失われた群に、別群の女王蜂の導入を試みたが上手く行かない。
すでに未交尾の処女王が存在する群に導入しようとして失敗するケースが大半です。処女王は腹部が働き蜂のように小さく、初心者には見分けが付かないこともあります。もっとも完全に無王であっても、導入女王をなぜか拒否して容易に受け付けない群もあります。王かごからの解放に1週間以上要する時もあります。芳香剤で匂いを紛らわせるとか、糖液を与えて蜂の攻撃性を緩和するなどの工夫が望まれます。もっとも簡単な方法は、合成の女王蜂フェロモンのルアーを利用する方です。(弊社の取り扱い製品)
失敗例には次のようなパターンがあります。
- 働蜂が王かごに齧りついていて、いつまでも経っても女王蜂を開放できない。
- 導入した群の中で、王かごから開放するまでに女王蜂が死んでしまった。
- 王かごから群に開放したが、殺されてしまった。
18 週末旅行で3日間留守にした間に、オオスズメバチに襲われて全滅した。
それまで見かけなかったオオスズメバチの襲撃が急に始まることはよくあります。数匹〜10数匹の集団で襲われ、防御のために巣門前に出て来る働き蜂を片端から噛み殺し、殺戮が終わると蜂児を持ち帰るために巣箱内に侵入します。昆虫界の食物連鎖の頂点を占める強敵で、1時間で蜂群を全滅させます。たとえ全滅を免れても、越冬が可能な群が残らなければ全滅に等しいことになります。
温暖化の影響で、問題にしなかった北海道でも大きな被害が出るようになっています。本州暖地では11月でも安心できなくなりました。
スズメバチ対策は色々あっても、単独で完璧にミツバチを守れる方法はありません。すべてを組み合わせても群を守り抜くことができるとは限りません。少数群を別々に分散して置くことはスズメバチのシーズンには最悪です。できるだけ1ヶ所に集めて集中管理する方が得策です。
19 採蜜して保存していた蜂蜜が発酵してしまった。どうすればよいか?
発酵が進んでしまった蜂蜜はどうしようもありません。低糖度の蜂蜜を採取して常温で保存すれば必ず発酵します。発酵した蜂蜜には市場価値を失います。採蜜時の糖度が78度以上であれば、容易に発酵は起こりません。
糖度の高い蜂蜜を採るためには、次のような注意が必要です。
- 少なくとも貯蜜面の3分の1以上に蜜蓋がされている巣脾を遠心分離する。
- 前回採蜜から10日程度間をあけて採蜜する。ただし、湿度が低く流蜜が大きい時などは、数日で糖度80度まで上がることもある。
- 2週間あければ蜜蓋がなくても糖度に問題はない。
- 水分の多い花蜜が持ち帰られる前、できるだけ早朝に採蜜作業をする。
- 7月以降の夏の蜜源には糖度が上がらないものがある。糖度が低いままに蜜蓋がされる傾向があるので注意が必要。採蜜しないでミツバチの餌に確保しておく蜂が賢明。(ただし、同じ蜜源でも気候条件が違えば、糖度に問題なく採蜜できる年や場所がある。)
20 越冬に失敗した。貯蜜も十分あったのに蜜を残したまま死んでしまった。
外気温が約12℃まで下がると、ミツバチは「蜂球」と呼ばれる密集状態になります。蜂球の外側の温度は低くても、中心部は高くて、蜜蜂はひそかに活動を続けます。蜂球深部にまだ育児圏があればその部分は約35℃を保ちます。
しかし、真冬の小さい群では、中心部も20℃以下になり産卵育児が途絶えます。
巣内温度を保つためにミツバチは少しずつ貯蜜を消費しながら、飛翔筋を振るわせて熱を発生させます。しかし、あまりに群が小さいとやはり全滅します。全滅の直接的な原因は、低温そのものよりも餓死によることが多いようです。
結晶した貯蜜を溶かして吸うことができない結果と考えられます。一部の特にブドウ糖分が多い蜜は、蜜蓋の内で石のように固く結晶してしまいます。
対策は余剰な巣脾を群から引き上げ、巣脾が蜂で覆われる密集群を作ることです。そんな群を断熱材で囲っておけば、巣房の中で結晶してしまった蜂蜜も、ミツバチは自力で溶解して冬の餌として利用することができます。特に春の建勢(群の増殖)時期には、その密集状態を作らせることが重要です。
蜂児が育つために必要な温度は34~35℃で、その温度は蜂がバラバラの状態では確保することができません。
初心者は巣枠を多く与えれば、多く産卵すると考えがちですが、実際はまったく逆の結果になります。蜂が散逸して産卵育児が可能な温度域の面積を減らしてしまい、かえって春の建勢が遅れるのです。
21 自然環境は良いはずであるのに、なぜか蜂が減る。増えない。女王蜂の交尾成功率が低い。
農薬被害の外につぎのような伏兵が潜んでいることがあります。
- ヒキガエル
湿地やため池が多い地域もあり、そのような場所がよく蜂場として利用されますが、しばしばヒキガエルの棲息が見逃されます。夜行性で昼間の蜂場には姿を見せませんが、夜には巣門前に陣取って、長い舌を延ばして次々にミツバチを捕らえます。一夜で200〜300匹を補食すると言われます。いよいよ食べ尽くして蜂が巣門に現れなくなると、頭で巣箱をノックすると言われます(真偽は不明)。舌には無数の刺針が残っていますが彼らは平気なようです。ジャンプは苦手なので、這い上がれない台の上に巣箱を置けば被害は防げます。
- ツバメ
ツバメが多くいるところでは、女王蜂の交尾が影響を受ける場合があります。皮肉にも割り出し養成の交尾とツバメが子育てのため懸命に虫を捕らえる時期が重なります。その時期その場所での女王蜂養成を避けるしかありません。東南アジアやオーストラリア北部では、ハチクイ(Bee Eater)と呼ばれる数種類の鳥が、ツバメ以上に巧みな捕食行動と圧倒的な数で、大きな被害を出す地域がありますが、幸い日本にはやってきません。
俵養蜂場ライブラリー参考資料
※⑴ 初心者に多い20の質問・Q1
※⑵「ネオニコチノイド系農薬によるミツバチ被害の実情」(トピックス2010)
「ミツバチの健康と農薬」(トピックス2012)
「ミツバチは足りているか?」(トピックス2014)
「養蜂生産物の残留物質について」(トピックス2015)
※⑶「隔王板の上手な使い方」(ライブラリー)
「養蜂スタート・多い質問」(ライブラリー)
※⑷「ミツバチの越冬と蜂球」・「ミツバチの栄養学」(ライブラリー)
※⑸「ミツバチへギイタダニについて」(ライブラリー)
※⑹「雄蜂用巣礎のすすめ」(ライブラリー)
※⑺「ミツバチ不足はなぜ起こるか?」(トピックス2015)
※⑻「ミツバチの病気について」の各病気別資料(ライブラリー)
※⑼「巣虫の生態を知ろう」(ライブラリー)