巣枠考

巣枠のいろいろ

 現在我々が使っているいわゆる可動式巣枠は、アメリカのラングストロス( L.L..Langstroth 1810~1895)によって発明された。

 当時の世界の養蜂家の間には、木枠に沿った巣脾を蜂に作らせて、群の観察や採蜜を容易にするという可動式枠巣枠のアイデアはすでにあり、「ビー・スペース」(二つの巣脾表面の間の距離)の知識に欠けていた。ラングストロスは自然巣を計測して、その平均値が7.3mmであることを発見し、現在の巣枠の原型を作った。さらに隣り合わせにある2枚の巣脾では、その基底間の距離が育児圏で約35mm(貯蜜圏では40~45mm内外)であることを知り,これに合わせて枠の横幅を定めた上、この巣枠が10枚入るように巣箱内径の横幅を決めた。彼の偉大さは、このようにミツバチの造巣生理の観察をもとに現在の巣枠の基本形を完成させた点にある。またその平均寸法が内径で横42cm、縦20cmで、人が両手で容易に巣脾を裏返して観察できるものであり、育児用または採蜜用巣脾としても無理のない絶妙のサイズになっている。干場英博氏著「蜜量倍増・ミツバチの飼い方」には、詳しく解説されている。

 ラングストロス式(以下ラ式)は、その後サイズはそのままに、横桟に耳の部分が付け加えられ、自動的にビー・スペースが確保されるようになった。「ホフマン式」(以下ホ式)として、現在全世界で最も普及している巣枠である。ところが例外的に我が国では、ラ式巣枠の上桟両端部に三角形のコマを左右反対側に1個ずつ打ち付ける方法が主流となっている。かつてはこの三角コマが紐で数珠繋ぎされて巣箱に付属していた。飼育中は取り外されていて、蜂群移動の際に限り輸送中の蒸殺を防ぐために巣枠の間にはめ込まれていた。換気のための広いスペースを保つためである。

 巣脾間隔は流蜜期には広げられ、普段は35mm以下に狭められていた。現在でも巣枠の補強とこの間隔確保の両方の役割を果たす「自距金具」という製品が販売されている。ところがいつの間にかビー・スペースの意味も忘れられたらしく、多くの養蜂家が巣枠補強のために金具を取り付けた上で、別に三角コマを打ち付けるようになってしまった。

 したがって「ラ式」「ホ式」の区別があるのは我が国だけで、海外ではラ式イコール我が国のホ式であり、一般養蜂家はホフマンと言う言葉さえ知らない。現在の「日本式ラ式巣枠」の巣脾基底間の距離は40mmになる。本来10枚用の巣箱に9枚しか入らないのはそのためである。

 現在、この「悪しき慣習」は、先進的な専業養蜂家から変わりつつある。初春の群養成に大きなマイナスの影響があることに気が付き始めたからである。干場氏は著書で、「額面蜂児を作らせるには育児圏を35℃に保つ必要があり、それには現在の3角コマを打ち付けた巣枠では幅が広すぎる。」と主張している。氏によれば「ミツバチにとっての1mmは人の30cmに相当する。」らしい。

 なお、埼玉県の熊谷養蜂場は2019年より13mmの3角コマに代え、8mmの製品を開発して新しい需要に対応している。同じ目的で弊社はプラスチック製のホ式転換部品を発売した。

 ヨーロッパやカナダには、上下に長い正方形の巣枠を収めた大型巣箱が使われている地域がある。その上に採蜜用の丈が短い巣脾を収める継箱を置く仕組みになっている。ラ式巣枠の表面積ではどうしても継ぎ箱部分にも広く産卵するし、それを避けるために間に隔王板を挟めば産卵圏がより狭まって王台形成即ち分封が早まる傾向が生じる。一方、大型巣枠の場合は充分な産卵圏が育児箱内で確保されるために、継箱の巣脾は隔王板を挟んで採蜜専用となる。ミツバチの繁殖生理の点では合理的だが、内部の点検が難しく、集約的で緻密な飼育管理には不向きである。定飼養蜂ながらやや粗放管理のヨーロッパ式の養蜂には適しているのであろう。しかし、ラ式すなわちホ式の利便性と世界の普及度を考えれば、このようなサイズの巣枠は次第に消えてゆくものと思われる。

 今日、ホ式巣枠にはプラスチック製で釘打ちしなくとも組み立てられるもの、巣礎部分も成型プラスチック製で巣枠と一体となったものなど新製品も多くだされている。

日本の巣枠(ラ式かホ式か)

 先に述べたように我が国ではいわゆる三角コマ付きのラ式枠が主流となっている。

 これのよい点はまず巣枠の値段が安いことである。(ただし三角コマの部品代が余分にかかる)

 次に巣枠間の接触部分が少ないため、プロポリスでくっついてしまうこともない。

 しかし採蜜作業時には蜜蓋の切り離しに三角コマが邪魔になる場合がある。また遠心分離機内のかごに引っ掛かりやすく、巣枠の出し入れに手間取ることもある。最大のデメリットは13mmの3角コマを付けた巣枠は、現在で世界で広く使われている自動転換式の遠心分離機が使えないことである。(分離機の狭いカゴ部分に入らない。なお、8mmの3角コマであれば問題はない。)

 さらに三角コマの取り付け方向が人によって異なると言う問題点がある。全国的にはほぼ9割の養蜂家が右手前に打ち付けているが、頑固に自分のやり方を変えようとしない人もまだ存在する。

 先に述べたように日本式ラ式巣枠のビー・スペースは、貯蜜圏相当の広い設定になっている。したがって、蜂群の越冬や建勢には世界基準の巣枠のほうが適切である。この点も巣枠トップメーカー中村養蜂場(栃木県)をはじめ、全国的に世界基準に合わせるように寸法を変え始めている。

 海外の巣枠と異なる点は外にもある。巣礎を張るための針金は日本では3本しかないが、実は世界どの国でも4本線である。3本線では、せっかく蜜が貯まった新巣脾を遠心分離機にかけて破壊してしまうことが多い。それどころか蜂群の輸送中に破損し、蜜が流れて蜂を全滅させることさえある。4本線を張るには、道具がないと手間取ることになる。滑車が2個ついた専用の作業台を利用すれば、熟練者でなくてもしっかりと針金が張ることができる。(別紙、「巣礎考」)

 一方、巣枠の部材同士の組み立て構造にも違いがある。欧米の製品は各コーナーが組み木になっていて、上桟と横桟の組み合わせ部分が首のように細い。貯蜜で重くなると作業中よく折れる。

 この点だけはどう見ても日本式のほうが優れている。

 またあちらでは巣箱にする部分を極力減らしてプロポリスの付着によって巣枠が離れにくくならないようにとの配慮から巣枠と巣箱の両方に極力接触面を減らすような工夫がある製品が多いが、移動のために両者を釘打ちする機会の多い日本ではあまりメリットにはならない。

 いずれにしても「日本式ラ式巣枠」が世界のなかでは際立って特異な型式である。ラ式・ホ式の別は問わず、できるだけ早く10枚箱には10枚が入るような巣枠に変わることが望まれる。

巣枠の寸法

 巣枠の寸法は同じラ式と言っても、国によっては桟の厚みや巣箱の構造が異なるために最大5mm程度の違いが生じてくる。日本での標準的な寸法は次のとおり。

内径    たて 20.5 cm      よこ 43 cm

外径    たて 23.5 cm      よこ 45 cm

耳部分幅   たて左右に1.5 cmずつ   厚み 1.5 cm

文責: (有)俵養蜂場ビーラボクリニック

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