ミツバチによるかぼちゃの花粉交配=知られていない効果
かぼちゃは雌雄同株・雌雄異花の植物です。雌花は茎に1つずつ付き、花の下には丸い子房があるので簡単に区別できます。雄花は雌花に先がけて1〜2週間前から順に咲き始め、その数は雌花に対して3.5〜10倍にもなります。受粉を確実にするための植物の戦略と考えられています。
雄花が開花しても、花粉が成熟して授精能力を持つまでにはしばらくかかります。花を摘んで手の平に振るい、黄色い花粉がこぼれ落ちれば成熟したことを示します。一方、雌花は開花日の午後には萎んでしまう短い命で、授粉のチャンスは午前中しかありません。雌しべの柱頭には花粉が付着しやすいように、粘液が分泌されます。雄花にも雌花にも花の基底部に蜜線があり、媒介昆虫を花の奥まで誘い込む仕組みを備えています。特に雌花が分泌する花蜜の量は雄花よりも多いことが知られています。
かぼちゃにはミツバチ以外の野性媒介昆虫も訪花します。また花が大きく、成熟雄花を摘んで雌花につける人工授粉も可能です。しかし、この作業は午前9時頃までに済ませたいものです。なぜなら雄花開花直後の花粉の授精率は約92%であるのに、同じ日の午前中で花が閉じる時には75%、翌日には10%まで落ち込むからです。
したがって、授粉は開花日のできるだけ早朝が望まれます。気温の高い日ほど早く花が閉じるので、面積が広い圃場では人手による授粉作業は難しくなります。
かぼちゃの原産地は中南米の熱帯低地や高原地帯とされている。野生の媒介昆虫の種類も多く、熱帯ではハリナシバチ(Mellipona類)、高地ではマルハナバチ (Bumble bee)やクマバチ (Carpenter bee)などの社会性ハナバチの他に、単独生活のSquash beeが生息します。
特にSquash beeは文字どおり「かぼちゃ類の専門家」で、ミツバチよりも朝早くからかぼちゃを目指して飛び立ち、花にとまるとすばやく動き回り、ミツバチよりも念入りに雄しべや雌しべに接触する生態が観察できます。他のハナバチよりも特に強くかぼちゃに惹かれるところから、元々野性かぼちゃ類専門の媒介パートナーと考えられています。ところが、この蜂は広い圃場でより多くのかぼちゃを結実させることには、ミツバチほどは貢献しないと言われます。
単独生活の種と社会性昆虫との違いです。ミツバチが蜜胃に入れて持ち帰る花蜜は米粒ほどですが、それを集めるために時には数百の花を訪れ、胃を空にしてからまた飛び出す作業をミツバチは終日繰り返します。一方、単独生活のハナバチは満腹すれば,それ以上別の花を訪れることはありません。この違いが授粉成果の違いとなって現れると考えられています。
ミツバチの群は最大数万匹にも達し、その20〜30%が野外で採集活動にあたりますが、単独生活のハナバチがそれに匹敵する密な棲息をすることはありません。また彼らの行動半径ははるかに狭く、広大な圃場の奥までは飛んでゆきません。
野性の媒介昆虫がいない地域では、人手で授粉を行うかミツバチに頼るほかにありません。しかし広い圃場で早朝に授粉を済ませてしまう働きは、ミツバチ以外にはなし得ない業です。かぼちゃはミツバチが好んで訪花する代表的な作物のひとつで、ひとつの花の中に同時に2〜3匹のミツバチを見ることさえあります。他に豊富な花蜜を分泌する花が咲く季節であっても、ふつう流蜜(蜜線から花蜜が分泌されること)する時間帯は、植物の種類によって違います。終日、数多くの種類の花を訪れるミツバチは花粉媒介のゼネラリストと言われます。
このように植物も競合を避けるために流蜜に時間差がある進化を遂げていて、競合植物が開花していても、ミツバチによるかぼちゃの受粉が妨げられることはないと考えられています。
最後に筆者の40年前の経験を紹介します。夏には北海道十勝地方に蜂群を移動していましたが、かぼちゃを栽培する農家に巣箱を置いていた当時の話です。収穫予想調査にやってきた地元農協職員が盛んに首をかしげるので理由を訊ねたところ、「ふつうは3,000個/ha程度のはずなのに、ここはどう見ても6,000個なっている。」と言うのです。構造改善事業などで圃場面積が広がり、自然界の媒介昆虫の営巣場所が失われた結果、いつの間にか大規模な圃場の作物収穫量に影響が出ていたのです。訪花昆虫は、実は6,000個が「ふつう」であったことに農家も農協も気がついていなかった例です。
十勝平野のような大規模な圃場でなくても、現在、全国的に別の理由で色々な作物の収穫に影響が出ています。水溶性で圃場が汚染され、根から吸い上げられて花粉や花蜜まで汚染されるネオニコチノイド系農薬の普及によって自然界の媒介昆虫が激減しているのです。今日、ミツバチはこれらの野性昆虫の代役を努めている状況にあります。
ミツバチによるかぼちゃ類の受粉効果
① 結実数を増加させる。(Jack-o lanternを除いて)
② 形状を良くする。
③ 0.5kg以下の小型品種のサイズを大きくする。( 自然界の媒介昆虫だけでは栽培品種の最大サイズが得られない。Cucurbita pepo 26%. C.maxima 78%. C. mostacha 70%)
④ 重量を増加させる。
⑤ 種子の数を増やす。(種子の形成は、柱頭に付着した花粉の量に比例)